狭小地の3階建てを光と静寂で満たす_建築家の自邸レポート_1
こんにちは、住宅ライターemです。今回から数回にわたり、遊空間設計室・高野保光さんのご自宅のレポートをお送りします。
まずは外観から。場所は都内の幹線道路沿いで、交通量も多い通りに接しています。右がご自宅、路地をはさんで左が高野さんの主宰する建築設計事務所のオフィス(中古住宅をリノベーションした建物)です。自宅の方、窓の縦ラインが通っていてかっこいいですね。1階部分は、上階の窓と同じ幅で外壁材を変えています。素材など詳しくは後ほど書きますね。
敷地は44㎡と、かなり小さい方。高野さんはここに家族4人(現在はご夫婦のみ)のための住まいを構想しました。建築面積(建物を真上から見たときの面積)は31.97㎡。畳にすると17.5枚分?! 10畳と7畳の部屋を足した大きさとあれば、かなり狭い家かな、と想像してしまいます。外壁は「リシン掻き落し」。リシンは砂のような粒状の仕上げ材をセメントで固める壁材で、コテで塗ったあと、乾かないうちに表面を掻き落とすとザクザクと粗い質感が出るそうです。9年経っているのに、ほとんど老朽化や汚染が見られません。建物全体を見ると、固まりとして中身の詰まった存在感があります。高野さんは建物のかたちを考えるとき、図面の上に粘土を積んで、手で造形するのだそう。よく見ると斜めの面があったり複雑なかたち。また、窓の縦ラインを違う仕上げにしたり、考え抜かれたデザイン。写真左に見える緑は、坪庭の竹。
南西の角を切り欠くかたちで玄関があります。ポーチの足元を浮かせ、飛び石のように添えられた天然石のステップが品格を感じさせます。右手奥が玄関ドアで、木ルーバーの壁でポーチを歩道から隔てています。ドアを開けた瞬間に歩道を行く人と目があってしまったり、通行人から室内が見えてしまう、といったことが起こらないための、ワンクッション。ほんの数歩の距離をどう工夫するかで、暮らし心地がだいぶ変わってきそうです。
「狭いから植栽なんてできません」などと言えなくなりそうな、玄関前のスペース。面積ではなく、どうイメージするか、が大事なんですね。ポーチは「豆砂利洗い出し仕上げ」。コンクリートに砂利を入れて、表面を洗い流すと砂利が顔を出し、より自然でやわらかさのある風合いになります。リシン壁のザックリ感や天然石と好相性。
粗い質感の外壁を切り裂くように、ステンレスの縦ラインをスーッと挿入して、郵便受けと表札、インターフォンを組み込んであります。質感の対比が際立ち、目が喜びます。
玄関ドアは、防火地域に対応した網入りガラスと、木ルーバーを組み合わせたデザイン。金属のバーを手掛けにして、板を丸くカット。しゃれてます。右側の木ルーバーと目地が合ってますねー。ちょっとしたことなのですが、仕上がりの印象に影響します。
ドアを内部から見ると、こうです。ガラスにしたのは、採光のため。木ルーバーは意匠性と防犯性を兼ねています。
中に入ると、「芦野石の古代仕上げ」のたたきがずーっと奥まで。段差は設けず、マットを敷いて「この手前で靴を脱いでね」と暗示。左の白い面は靴収納です。取っ手なしのすっきりしたデザインなので、幅の狭い空間でもじゃまになりません。
壁は茶色い土壁と白い漆喰壁、2種類に塗り分けられ、それぞれに飾りのスペースがつくられています。手前に少し薄い漆喰壁をかぶせて突き当りを隠すことで、奥へと続いているように錯覚させる見せ方。ライティングも効果的。敷地が微妙に台形に歪んでおり、その歪みによって生まれた細い三角形の部分を、飾るスペースにあてています。1階の間取り図を、写真の下に貼りますね。
目の前には螺旋階段が見えます。右手が南側ですが、歩道に接する面なので1階レベルには窓を設けず、階段吹き抜けを通して高窓から光を採り入れています。漆喰壁に光が反射して、コテ跡の艶が見えます。手仕事の妙。
螺旋階段の見上げ。光の筒になった白い吹き抜けに、黒いスチールのシャープなシルエットが効いています。手すりも繊細で美しい。思わずため息の出るシーンのひとつ。
最後にまた、外壁の説明を補足。手前は「フレキシブルボード」という、セメントに繊維を混ぜて板状にしたもので、本来は下地に用います。薄さを生かした下見板張りがとても繊細。上はピッチが狭く、下は広くなっているんですね。真ん中がリシンの掻き落としで、一番奥が木ルーバーのペイント仕上げ。グレーとベージュ、異素材のコンビネーションは変化に富んでいてリズミカル。歩道ギリギリまで迫る壁なので、歩行者の目線と近いことを意識して、ていねいにデザインしたのですね。幅の細い地面にもしっかりグランドカバープランツが植えてあり、私がこのあたりの住人なら、ここを通るのを楽しみにすると思います。
高野さんは彫刻制作に取り組んだご経験があり、多くの設計士さんとは少し違う道筋を経て建築へと進まれました。建物の造形や空間づくりにはその影響が色濃く表れ、誰にも真似できない高野さんの個性になっていると思います。
次回は玄関と1階のLDKをご案内しますので、お楽しみに!
この家の様子を、動画でご覧になれます。広がりのある室内を疑似体験してください。
遊空間設計室のHPには、珠玉の名作住宅が目白押し! ↓
DATA
設計 高野保光/遊空間設計室
所在地(Location)/東京都(Tokyo)
家族構成/夫婦+子2人(計画当時)
構造・規模/地下1階(書庫)+木造3階建て
敷地面積(Site area)/44.12㎡
延床面積(Total floor space)/75.69㎡
地階(basement)/13.97㎡ 1階(1st floor)/28.79㎡
2(2nd floor)/階28.51㎡ 3階(3rd floor)/18.39㎡
竣工/2012年5月
施工/内田産業 http://www.uchida-sangyou.co.jp/index.php
造園/青山造園
【外部仕上げ】
屋根/ガルバリウム鋼板 t=0.35㎜ 平葺
外壁/リシン掻き落し、セラミソフトリシン吹付、
フレキシブルボードt=6.0+6.0mm下見板張りノ上、撥水材塗布
開口部/アルミサッシ(YKKap)
外構/ポーチ:豆砂利洗出し仕上
【内部仕上げ・使用機器】
部屋名:1階 ダイニングキッチン
床/ウォールナットフローリング(3層) t=15mm 植物性オイル
壁/PB t=15㎜ 漆喰塗
天井/強化PB t=15㎜ 漆喰塗
◎厨房機器/
食洗器/Panasonic NP-P45M2WS-S
ガスコンロ/Harman C3WJ5PWAS6STD
換気扇(シェード)/H&H Japan HI-90S
製作家具/オリジナル
照明/ルイスポールセン トルボー220 Panasonic HGA1350CE・DNライディング SAL-S3-1500A
◎建築金物/LAMP、ekrea
シンク水栓金物/INAX SF-E546S
その他/カウンタートップ(シンク一体):ステンレスヘアライン 1.0t
部屋名:2階 バスルーム・洗面室
床/磁器質タイル貼
壁/陶器質タイル貼
天井/耐水PB t=12. 5mm+珪酸カルシウム板 t=8.0mm ケンエース塗
照明/Panasonic LGW86000
建築金物/ガラス丁番:LAMP 787B-800、把手:UNION G2090-01-001-W
バスタブ/INAX ZB-1400H
シャワー水栓金物/KAKUDAI 173-213
空調機器/Rinnai RBH-C333K1SNP
その他/
部屋名:1階 土間
床/芦野石(古代仕上)貼 t=20ノ上、レッカノン塗
壁/PB t=15㎜ 漆喰塗
天井/強化PB t=15㎜ 漆喰塗
製作家具/オリジナル
照明/Panasonic LGB71640LE1・LGB50003
部屋名:1階 茶の間
床/フチナシタタミ t=55mm
壁/PB t=15㎜ 漆喰塗
天井/強化PB t=15㎜ 漆喰塗
製作家具/オリジナル
照明/Panasonic LGB70070・LGB70080
部屋名:2階 ルーム1
床/ウォールナットフローリング(3層) t=15mm 植物性オイル
壁/PB t=15㎜ 漆喰塗
天井/強化PB t=15㎜ 漆喰塗
製作家具/オリジナル
照明/Panasonic HGA1350CE・TOKIコーポレーション TLP-50-WW
部屋名:2階 ルーム2
床/ウォールナットフローリング(3層) t=15mm 植物性オイル
壁/PB t=15㎜ 漆喰塗
天井/強化PB t=15㎜ 漆喰塗
製作家具/オリジナル
照明/Panasonic HGA1350CE
部屋名:3階 ルーム3
床/ウォールナットフローリング(3層) t=15mm 植物性オイル
壁/PB t=15㎜ エコクロス貼
天井/PB t=9.5㎜(2重) エコクロス貼
製作家具/オリジナル
照明/Panasonic LGB84050
部屋名:3階 茶室
床/フチナシスタイロタタミ t=15mm
壁/PB t=15㎜ 土・木屑・スサ入左官壁
天井/PB t=9.5㎜(2重) 土・木屑・スサ入左官壁
製作家具/オリジナル
照明/Panasonic HGA1350CE・LGB70080・DNライティングSAL-S3-500A
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