狭小地の3階建てを光と静寂で満たす_建築家の自邸レポート_4

空間設計室・高野保光さんのご自宅のレポート、4回目(最終回)は、最上階(3階)にある茶室と屋上庭園、かわいらしいロフトついてレポートします。1回目は外観、アプローチ、玄関について、2回目ではLDKについて、3回目では2階の寝室と水回りについてお伝えしたので、よろしかったらご覧ください。

3階はちょっと複雑な構成なので、まずは、間取りをご覧ください ↓ 右下の丸いのは螺旋階段、その左側が茶室です。上下の中央にある緑のもやもや部分は屋上庭園とウッドデッキ。その上はロフト、さらに上は屋根が表現されています。


螺旋階段を上がっていくと、おやっ?という光景が。外壁と、緑?

茶室と屋上庭園が… 街中の住宅、しかも3階とは思えない光景。

階段を上り切った踊り場部分は石張りで、ここがお茶室に至る露地であることが暗示されています。正方形の石は、茶室の入り口手前に置かれる靴脱ぎ石でしょうか。

茶室に入り、振り返ったところ↓ 入り口は、腰をかがめて入る「にじり口」です。

これより上の階はないのですが、階段は無限に続いていくかのようなつくり。遊び心と洒落っ気に、想像力を刺激されます。

しばし畳に座って、下地窓からお庭を鑑賞。低い横長の下地窓に切り取られた庭を眺めていると、とても広い庭であるかのような錯覚が。写真右側で、向かい側の部屋の窓が街の景色を写し出しているのが見えますか?時空をまたいでいるような、不思議な光景。

こちら↓は、茶室向かい側のロフトから逆を向き、階段越しに外のビルを見通したところ。上の写真ではこのビルがガラス窓に写っています。右側が茶室で、左下に見えるのは小さなウッドデッキです。

もう少し角度を変えて、ウッドデッキを見たところ。ここに座ってお庭と空を眺めるとトリップできます。

本格的な和風庭園としてしつらえられたお庭。階下とは隔絶され、まるで別世界。

鳥の声が…。ここはどこだったっけ?

水鉢に水が流れる音に、心がほぐされます。木の根元にはきれいな苔。しっかり灌水されているのですね。

茶室の障子を閉めると、また違う世界にワープします。小さな手漉き和紙を張り合わせた「石垣張り」。華奢な桟と和紙のつなぎ目のシルエットが小気味良い。前回出てきた寝室の障子とは、まったく違う意匠で、勝るとも劣らない美しさ。障子って奥深いですね。

壁と天井は「土・木屑・スサ入り左官仕上げ」。天然素材+手仕事、最強です。葦(よし)張りにした天井の一部は、面をわずかに上げてあります。これも茶室的な意匠。写真の右下あたりに注目してください。ここには隙間があります。

壁と天井を突き付けにせず細いスリットを入れることで、光が行き来して小さな空間の閉塞感が消されています。

こちらは庭に正対する面にある床の間。ここで間取り図を振り返っていただくとわかるのですが、敷地形状に沿わせるために建物が微妙に台形になっていて、四角い部屋を確保したときに余ってくる細い台形のスペースを、床の間にあてています。そしてそこには、高野さん自作の陶芸作品が。建築は文化の背景であり土台。設計者が文化を愛する気持ちは、空間に表れるのですね。

こちらは、にじり口の正面にあるもっと本格的な床の間です。

土壁の出隅・入隅を丸く塗り回し、間接照明を床板の下から光らせています。手斧(ちょうな)仕上げの板と黒い丸柱。茶室の知識はありませんが、すべてが絶妙なバランスで成り立っている美しさは、感じ取ることができます。精緻につくられた工芸品を鑑賞するときのような、静かな興奮。

こちらは、向かい側のロフト。以前はお子様の個室として使われていましたが、自立された今はゆとりのスペースになっています。2階からは梯子で上がり、床板の一部を押し上げて入ります。そのうち、遊びに来るお孫さんたちの秘密基地になりそうですね。

これで、高野さんのご自邸のレポートは終わりです。以下のルームツアー動画では、この空間をより立体的に疑似体験していただけますので、ぜひご覧ください。

高野さんが主宰する建築設計事務所「遊空間設計室」へもぜひ!見ごたえのある住宅がたくさん掲載されています。

詳しいDATAは1回目の最後に記載してあります。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!次回もお楽しみに。

住まい逍遥

住宅・ライフスタイルをメインフィールドとして活動するフリーライターの松川絵里が、憧れや共感、好奇心を掻き立てられるスタイリッシュな住宅を、取材・レポートします。動画で美しい空間やライフスタイルを疑似体験するルームツアー・チャンネル「Cozy Houses in JAPAN」を運営。 https://www.youtube.com/c/CozyHousesinJAPAN_housetours