透明な建築を味わう_永田昌民さんの自邸
数日前に、建築家の故・永田昌民さんのご自邸の動画を公開させていただきました。まだの方はぜひご覧になってください。(一番下に貼っておきます)
昨年、やや緊張しながら撮影を申し出たところ、永田さんの奥さまと次女のHさんが全面的に協力してくださり、とてもありがたかったです。
永田さんの設計された住宅を、実はあまりたくさん拝見したことがありません。ライターとして取材させていただいたのは、以前のRCのご自宅「東久留米の家」、RCワンルームに離れの書斎がついている「所沢の家」、そして動画になったご自宅「下里の家」。そしてもう一軒は、内覧会におじゃましたのみです。
永田さんの住宅は、一見そっけないほどシンプル。特に、入居前の状態を拝見した内覧会のときは、どこを見ていいかわからないと思ったのが正直なところ(ディテールなど設計の知識がないので)。ありがちな「見せ場」はなく、写真に撮りにくい空間というか…… 外観も含めてドヤるところがなく、「どこを設計したの?」という感じに見えました。
でも、だからなんですね、暮らしが入ったときに輝いて見えるのは。そして、輝くのは窓の外の緑や、障子に揺れる木のシルエット、家具や置かれているものといった営みの痕跡であって、建築は空気のようにあるだけで主張しない。それは私がシロウトだからで、建築の道の方は建築が見えてくるのだとは思いますが。
ご夫君が遺した上質な暮らしの器を、奥さまはこよなく愛し、季節ごとにしつらえを変えるそうです。細やかに楽しんでいる様子があちこちから伝わってきました。そういうことがしやすい「余白」を、永田さんは大事にされていたのではないでしょうか。
永田邸は住宅としてのひとつの理想形だと思うのですが、動画にするとどうなるのか?は、実は自信がありませんでした。吹抜けや目立つ造作、大きな窓などのない淡々とした空間を、視聴者はどう受け止めるのだろうか? ……と半信半疑。視聴回数が気にならないわけでもありませんし。でも、世界中の建築ファンや、これから住宅建築に携わる日本の若い人たちに、伝えるべきもの、伝えたいものだから、という思いで動画をつくりました。
編集がひと通り終わったところでHさんにURLをお送りして、お返事をいただくまでがまた緊張。「OK」をいただけて、テロップなどの不明点や間違いを修正し、晴れて公開にこぎつけました。私のチャンネルには、いつもほとんどコメントがつかないのですが、ほどなく各国からコメントが入ったのは驚きでした。日本語や英語はもちろん、ドイツ語やインドネシア語で「人に優しい家」「住みやすい家」「パーフェクト!」といった称賛の言葉が連なって。賞賛は、建築空間とライフスタイルの両方に向けられているように感じます。それは、永田さんの本意から逸れていないはず。文化の違いを超えて魅力が理解されたことに感動を覚え、動画の活動をやっていて本当によかった、と報われる時間でした。
Hさんにご挨拶のメールをお送りすると、ご親族やお知り合いも喜んでくださったとのお返事をくださり、ホッと胸をなでおろしました。中でも嬉しかったのは「父も絶対大喜びしてますよ」と書いてくださったことです。あー、良かった!ありがとうございます。
Hさんは、ご自分の過ごされた住まいを映像を通して眺めることで、新たな発見があったと書いてくださいました。木製建具の枠の線や、天井との境、壁や棚の線を美しく感じたそうで、見慣れているはずのものが新鮮に見えたことを、不思議がっておられました。
視聴者の反応やNさんのお言葉に、これからも、「いいものは、いい。」と、胸を張って発信を続けていく勇気をいただきました。今後も自分本位に(ミーハーです)、ビビッ!と来る住まいを取材していきたいです。永田さん、すばらしい御縁をありがとうございました!
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